
1. レガシーシステムと機能テストのジレンマ
レガシーシステムにおける機能テストは、安全性の確保に欠かせない一方で、「古いコードへの過剰な依存」や「削除できないテストケース」が増え続けるジレンマを抱えています。特に、仕様が不明確な部分に対して「とりあえず残す」姿勢が続くことで、テストの目的が形骸化し、本質的な品質保証が難しくなるケースも少なくありません。
こうした状態を放置すると、開発スピードの低下やバグの見逃しに繋がるリスクも。テストの目的と効果を定期的に見直し、「何を守るべきか」をチームで共有することが、レガシー環境におけるテストの再構築において重要です。
2. レガシーシステムで機能テストが困難な理由
レガシーシステムでは以下のような要因が、機能テストを難しくします。
・ドキュメントの欠如または陳腐化:仕様書や設計書が最新でないか、そもそも存在しないことが多い。テストケース設計時に「何が正しい動作か」が曖昧になる。
・技術スタックの古さ:古いプログラミング言語やフレームワーク、廃止されたUI技術など、モダンなツールとの相性が悪い。自動化が難しいケースが多い。
・緊密な依存関係(tight coupling):モジュールやサブシステム間の結合度が高く、1つの変更が多数に影響を与える。テスト範囲の切り分けが難しい。
・テスト自動化の未整備または欠落:単体テスト・回帰テストなどが十分に整備されておらず、手動テストに頼る部分が多い。
3. “やめたいのにやめられない”テスト観点とは何か
レガシーシステムで「理想的にはこうしたい」けれども継続されてしまっているテスト観点には次のようなものがあります。
・古い仕様やバージョンの互換性テスト:過去の仕様に基づいた動作を維持するために、旧UIや旧APIを残してテストし続ける。
・無数の手動回帰テスト:自動化できない/できていないため、リリースごとに手作業での検証が必要。
・キャッチアップよりも現状維持重視:新しい機能投入よりも「既存機能が動き続けるか」が優先される。
・モジュール境界の曖昧さ:どこからどこまでを1単位としてテストすべきかの線引きが不明瞭で、テスト漏れや重複が起きやすい。
これらは組織の負担を増やし、品質改善を阻害する「見えない重み」となります。
4. 機能テストで注目すべき観点とKPI
レガシーシステムであっても、機能テストにおいてモニターすべき指標(KPI)は明確です。以下の観点を測ることで、何を改善すべきかが見えてきます。
5. 具体例:古いコードが引き起こす問題と対策
例1:仕様書が古くてテストケースがズレている
ある業務アプリで、「編集機能」のUIが過去にマイナー改修されていたが、仕様書には反映されていなかった。そのため、機能テストを設計した際に誤った期待値を前提として多数の“テスト失敗”が発生。結果、仕様書と実際の動作との差異を調べる時間が大幅にかかった。
対策:仕様を実務利用者と確認して最新版に整理する。ドキュメントが不明な点はログやユーザー操作履歴から逆算する。
例2:自動化が難しいUIフレームワークによる落とし穴
古いデスクトップ業務系アプリで、Visual Basic 6やDelphi ベースの UI を使っていた。モダンな自動テストツールとの相性が悪く、UI 操作の識別子が不安定。多くの自動テストが“すぐ壊れる”状態だった。
対策:自動テスト可能な部分(たとえばバックエンド処理や API 層など)を先に切り出し、その後 Golden Master テスト(既存の挙動を記録して維持を確認する方式)を導入。 UI レイアウトの微調整には専用のツールや画像認識を補助的に利用。
6. 改善アプローチ:小さく始めて継続する方法
レガシー環境で一気に全部を直そうとするのは非現実的です。以下のステップで、段階的かつ持続可能な改善が可能です。
- 優先機能を選定する
利用頻度の高い機能/ビジネスにとって致命的な機能をまず対象に。 - 現状把握(実際の動作 + ログ +ユーザー報告)
古い動作を分析し、仕様とのずれや負荷がかかっている箇所を可視化する。 - テスト設計の再構築
単体テスト、統合テスト、回帰テストのうち、まずは可能なものを自動化。既存のテストを失わないよう注意する。 - 小さな改善を繰り返す
例えば1つの画面/モジュールずつ UI を整理・リファクタリングしながらテストを追加する。 - ドキュメントと知識共有
レガシーコードの理解をチーム内で共有し、仕様やテスト観点を明文化する。後任者・新規メンバーへの負荷を下げる。
レガシーシステムは過去の積み重ねであり、「捨て去るもの」ではなく、「今の品質を支える土台」です。機能テストにおいて、古いコードや仕様を軽視せず、感覚だけではなくデータに基づいた判断をすることが、品質を保つための鍵です。手動テスト・自動テスト・ドキュメント・継続改善を少しずつ積み重ねていくことで、将来的な障害リスクを抑え、保守性と信頼性のあるソフトウェアを維持できます。過去と向き合う覚悟を持って、テストにおける”やめたいのにやめられない観点”を見極め、改善を実行していきましょう。
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