
1.機能テストの基本と目的の再確認
機能テストとは、ソフトウェアのそれぞれの機能が仕様どおりに動作するかを検証するテスト工程です。入力に対して正しい出力が得られるか、仕様にない動作をしないかを確認することが主な目的です。
主な目的を整理すると、
・正常系の動作確認
・異常系・エラー処理の確認
・要件仕様どおりに機能が提供されているかの検証
・ユーザーが意図しない使い方をしたときの挙動確認
ここで注意したいのは、「機能テスト」だからといって「正常系だけを重点的に見る」ということではなく、異常系や入力のバリエーション、境界値、さらにはシステム全体との組み合わせなども含める必要がある点です。
2. テスト観点が偏るメカニズム
認知バイアスとは?
認知バイアスとは、人間の認知における系統的な偏りのことです。先入観、思い込み、過去の経験、慣れなどが原因で、物事を客観的に判断できなくなることがあります。 QAやテストの現場においては、こうしたバイアスがテスト観点の抜け漏れや誤判断を引き起こします。
テスターによくある思考の癖
いくつかの典型的な癖があります。
・正常系を過信する:仕様通りの入力だけを試す傾向
・過去の成功パターンに頼る:「以前うまくいったテストケースをまた使おう」思考
・異常値や予期せぬ操作を後回しにする思考
・非機能要件を軽視する:性能、セキュリティ、レスポンスの遅延などが後工程で問題になることが多い
バグを見逃す典型的なパターン
・境界値やエッジケースをテストしない
・外部システム連携や異常通信のシミュレーションをしない
・利用環境の多様性を考慮しない(ブラウザ、OS、ネットワークなど)
・非機能要件(性能・セキュリティ・可用性など)がテスト計画の後回しにされる ポイント
3. 実際の現場で見られる「偏り」の事例
以下は、現実のプロジェクトでよくある偏りの具体例です。
・会員登録機能をテストする際、画面のレイアウトや入力検証(文字数・文字種)ばかりに注意を払い、「重複登録」「ネットワーク切断時の挙動」「異常系のメッセージ表示」などが十分にテストされていなかった事例。
・多くのテストが正常系で実施され、異常入力(null、空文字、非常に短い/長い文字列など)や予期しない入力値(特殊文字、絵文字など)を考慮していなかった。
4. 偏りを打破するための心理学的アプローチ
機能テストにおける観点の偏りを防ぐために、認知心理学の知見を活かした対策を以下に示します。
多様な視点を取り入れる
・チーム内で複数人でテスト観点を洗い出すワークショップを行う
・新人・熟練者・他部門のメンバーを混ぜて観点レビューをすることで、慣れや先入観を減らす
チェックリストや観点表の活用
・観点表を作成し、非機能要件・異常系・境界値などのカテゴリを明確にする。仕様書と観点表とのトレーサビリティを保つ。
・テスト設計時に意図的に「異常値」「極端な入力」「端境値」「エラー処理」「遅延」「負荷」などの項目を含めるチェックリストを使う。
認知バイアスに気づく・意識する
・「確証バイアス」「アンカー効果」「現状維持バイアス」など、認知バイアスの種類をテスター全員で学んで共有する。
・テスト設計レビューの際に、自分自身の先入観を意識的に問い直す時間を設ける。「なぜこの入力条件を選んだのか」「他の可能性はないか」などの質問を自分に投げかける。
フィードバックループを構築する
・テスト結果やバグの発見後に、見逃した観点を振り返り、次回テスト設計に反映する文化を作る
・レトロスペクティブや振り返り会議で、観点抜け・偏りがあったかどうかを共有する
5. 機能テストの品質を高めるために今できること
今すぐ実践できるステップを以下にまとめます。
- 観点表を作る:カテゴリ別(正常系・異常系・非機能・外部連携など)に分ける
- テストケース設計時に異常系・境界値入力を必ず含めるルールを設ける
- レビューのときに「過去に見落とした観点」をリスト化し、それを参照する
- 異なる背景を持つメンバーでレビューをすること(慣れ、専門性、役割が違う人)
- チェックリスト・テンプレートを用意し、新規プロジェクトや新機能追加時に使う
機能テストはソフトウェア品質の基盤でありながら、人間の認知の癖によって観点が偏ってしまうことがよくあります。その偏りは、異常系や非機能要件、極端な入力シナリオ、外部連携などのテストが見逃される原因となります。認知バイアスを理解し、多様な視点を取り入れ、チェックリストや観点表を活用し、レビューとフィードバックループを整えることで、テストの観点の偏りを打破できます。これにより、リリース前により多くの潜在的なバグを発見し、最終的なプロダクト品質を大きく高めることが可能になるでしょう。
ハトネット は、全国の IT 企業間の現場の IT 担当者を結び付け、雇用主が効果的かつ専門的な方法でリソースを最大限に活用し、コストを節約できるよう支援します。
IT 業界で最大 500,000 人の人々を接続します。
パートナーを見つけるコストを節約します。
小さなご要望でも、いつでもオンラインでお申し込みください。
※お問い合わせ:
メール: hello@hatonet.com